ベルホップの遺稿発見される
1912年4月、大西洋で2度にわたる沈没危機に遭いながらも無事だった豪華客船「ディーダラス号」に乗船していたとされ、現在まで生死のわかっていないミステリ作家アーク・ジュール・ベルホップ※。そんな彼がディーダラス号乗船直後に残した遺稿が、このたび93年ぶりに発見された。
今月26日、ニューヨーク州郊外のハンクオーク港近辺に潜っていた3名のダイバーが、半分泥に埋まった「厳重そうなトランク」を発見、引き上げに成功した。力ずくでは開かないそれを、ニューヨーク大学へ送って検証したところ、残された署名やデザインなどからアーク・ジュール・ベルホップのトランクと断定された。
中には新聞紙に包まれたワインボトルがあり、その日付からトランクが海に投げ入れられたのは1912年4月10日、ディーダラス号出航日以降と判明した。
ボトルの中には、細く筒状にされた原稿が計200枚程度発見され、当時ミステリ界で活躍していたベルホップが船内で完成させた小説数点の可能性が高いと言う。同船が沈没の危機にあったとき、とっさに保存する方法を考えて海に放ったと見られる。どれも保存状態は良好で、紛失箇所も無い模様。貴重な発見として話題を呼びそうだ。
今回発見された遺稿は、イギリスに住むベルホップのひ孫、マークさんが権利を受け継いで出版する見通し。
ベルホップ本人の行方については不明で、沈没危機当時「救命ボートで見た」「自室にこもっていた」「走り回っていた」と証言が食い違っていた。結局、最寄りの港へたどり着いて船は沈没しなかったにもかかわらず、「消えてしまった」乗客は他にも多数おり、93年経った今も行方はわかっていない。
※1875年イギリス生まれ。 新聞記者を経て、1900年に考古学者フェルッポ・スミス・ラザーを探偵役としたミステリ長編『日本納豆の秘密』でデ ビュー。魅力的な謎と解明、イギリスユーモアの溢れる作風で人気を博した。1912年、夫人と乗り合わせた『ディーダラス号』で行方不明に。夫人は無事だった。日本では、『大佐の噛み煙草』『酒屋の納骨堂』、『カリマンタン原人の謎』、『フェルッポ・スミス・ラザー短編集』で知られる。