シャーロック・ホームズの『直筆』手記発見 実在した人物か
『名探偵といえばホームズ、ホームズといえば名探偵』
アーサー・コナン・ドイルが生み出した、世界中で認知度抜群という数少ない男性「シャーロック・ホームズ」。長い間、ドイルの創作と思われてきたこの人物だが、先月30日、イギリス・サセックスの旧家から「ホームズの『直筆』手記」が発見され話題を呼んでいる。
1887年に、イギリスのある医師(ドイル)が発表した『緋色の研究』から120年以上。世界中で何百万もの人々を熱狂させてきた『名探偵』が、実在の人物である可能性が出てきた。
チャールズ・ブラウンさんが、200年以上の歴史を持つ養蜂農家だった実家の倉庫から古ぼけた本を発見したのは、先月10日。『養蜂の研究』と題されたそれの表紙には、しっかりと「1948 シャーロック・ホームズ記す」と書かれていた。奇しくもその題名は、初登場作『緋色の研究』とそっくりであった。
イギリス有数のホームジアン(シャーロキアン)※で、『ホームズの履歴書』などの著書があるフレデリック・コリンズ氏の元へそれを届けたブラウンさんは、驚きの回答を得る。「現在、ホームジアンの一部が支持し、再考の余地がある学説」を裏付ける資料となったというのだ。それは「シャーロック・ホームズ実在説」である。
「あ るホームジアン(シャーロキアン)がドイルの近辺から入手した資料によれば、シャーロック・ホームズ本人とドイルのやり取りと思われる書簡が数点確認でき ます。発見当時は誰も相手にしませんでしたが、それらは非常に生活感のある文章で、ドイルの作為的なひとり芝居とは思えません」とコリンズ氏は語る。
さらに続けて「ホームズの実在は、今回の『養蜂の研究』発見で非常に信憑性が高い説となりました。ひょっとすると、今もどこかに『彼』は生きているのですよ」
『養蜂の研究』は、作中でサセックスに引退したとされるホームズによる、養蜂に関する細かな学術記録。全1巻、296Pの大著である。高名な養蜂農家だったブラウン家と親交が厚く、寄贈したと見られる。手書きの同書の最後には、署名も確認できた。(写真)
本物だとすれば、世紀の大発見、美術的・学術的・文学的史料価値は計り知れない。
今回の「ホームズ実在説」が正だとすると、「ドイル=ワトソン」とする見方ができる。ともすればベイカー街での出来事も事件も、すべて真実だった可能性すら出てくるのだ。コリンズ氏を始めとする「イギリスホームズ愛好連盟」は、連日テレビで「ホームズさん、おられるのなら、この放送をご覧になったのならばご登場願います」と呼びかけ、行方不明者並みの捜索を展開している。
ドイルの遺族はコメントを出していないが、ドイル本人の最後の著書『我が人生』において、ホームズ作品に関して「彼と出会えて嬉しかった」と記している。これが当時から「ホームズ実在説」の元になったのだが、現在に至っていよいよ真実味を帯びてきた。
一方で捏造説も絶えず「行き過ぎたパスティーシュ」(ロンドン・マガジン)、「大恥物の大発見」(ストランド・カッタリーズ)とメディアの論調は厳しい。発見者のブラウンさんは現在、沈黙したまま。
ホームズ本人のものと特定できるものが無い以上、比較鑑定は不可能であって、真相の究明には知恵を絞る必要がありそうだ。そう、ホームズがその昔、そうしたように…。
※ホームジアンあるいはシャーロキアンとは、シャーロック・ホームズ作品の愛好者の総称。世界中に協会や連盟が存在し、作品世界へ対する研究を行う場合もある。