人間対機械 チェス世界最強”王者”の行方は


UIT社は16日、今年9月にチェスヨーロッパ連合認定チャンピオン、トミー・ファンデンホーヘンヴァンド氏(41、オランダ)を破った同社製これまでに無い頭脳を持ったチェスコンピュータ(同社幹部)である「ディープ・グリーン」について、来年の利用計画を発表した。

そこには05年度最初の「仕事」として、「ディープ・グリーン」を「WCA主催 世界チェス王者決定戦(優勝賞金200万ドル 、05年1月20−29日、アメリカ・ラスヴェガス)に挑戦者として出場させると言う仰天プランが含まれている。

UIT社は今年6月、同社初のチェス対戦専用コンピュータ「ディープ・グリーン」を発表。97年のIBM製「ディープ・ブルー」の影響を受けたもので、それ以来7年間にわたって研究が続けられた。発表直後から「世界最強のチェス機械」の評価が立ち、ヨーロッパチャンピオンであるファンデンホーヘンヴァンド氏と対戦した際には結果5勝1敗1分で勝利し た実績を持つ。

人間対機械の歴史は、「メルツェルのチェス指し人形」や、IBMのディープ・ブルー対世界王者カスパロフ氏などが有名。現在までの対戦成績 で言えば人間は勝ち越せていない。独特の「水平帰着理論」で一手を分析する能力は、世界初の方式だと言う。

開発技術者グループの責任者、マイケル・リー工学博士(61)はこう語る。「ディープ・グリーンの開発に当たり、我々は徹底的に”人間的な思考能力”を搭載させました。結果、非常に思慮深く、それでいて愛嬌に満ちた”人格”が形成されました。しかも、今回は新しい試み-機械的予知能力-についても満足できる結果がもたらされました」。

今回の成果は「現在でも研究過程である「人工知能(A.I)」において、非常に有益な素材となり、新分野開拓としても評価できる」として、期待をのぞかせた。

ディープ・グリーンの大会参加の報せを受けたWCAは取材に対し、「出場規定である条件は、

  • チェスのルールを認知しているもの。
  • チェスに対して何らかの実績があるもの

であり、これを満たせば問題ないと思われる」と、明言は避けた。

同大会は、世界各国から名人らが集う大会として有名。出場資格である「何らかの実績」は、通算勝利数や勝率、速度や優勝経験、学術的研究と言ったさまざまな分野があるが、ディープ・グリーンの場合は「優勝経験」に当てはまる、とUIT社はしている。

今 回の大会が、今までの「人間対機械」と違う点は、参加者全員が総当たり戦で減っていくと言うこと。毎年、約100名ほどが参加するが、高レベルな戦いでの 中での結果が注目される。挑戦が認可されれば、ディープ・グリーンはヨーロッパチャンピオンを倒した実績でシード権が与えられる可能性が高い。また、 WCA認定世界チャンピオンであるフランクリン・ピターフェルド氏(29)もシード選手として参加する。

UIT社は同時に、「優勝してしまったら」(UIT社専務)、優勝賞金200万ドルは慈善団体へ寄付する意向も明らかにした。「我々は、大きな自身と確信を持っています。新時代の到来か、終焉か。決着をつけたいですね」と自信の程をのぞかせた。

だが、もし優勝した場合に、チャンピオンは「ディープ・グリーン」となるのか、「UIT社」となるのか、または「開発者一同」となるのかなど、出場権議論前に「早すぎる議論」も見られた。

UIT社は今回のディープ・グリーン利用発表で、目標の一つに「打倒ピターフェルド氏」を掲げたが、1月には早くも対戦が見られるかもしれない。利用計画には「チェスプログラムの平易化での一般市場参入」などだが、最終目標は「チェス研究での成果を、人工知能研究や機械予知能力研究、また宇宙開発といった最新産業で応用すること」とした。

今回の出来事を、チェス研究の大家レイ・ジャクソン氏(79)はこう見る。「強いのは人間か機械か。これは、チェスに限った人間の欲求ではありません。今回たまたまチェスが選ばれたわけですが、このような対戦方式は珍しく、新たな歴史を刻むことは間違いありません」。

メルツェルのチェス指し人形でも知られる「人間対機械」。中世から続くこの”伝統”の決着は、付くのだろうか。