学校


2月。わたしがこの学校へ入ってから、もう3年が経とうとしている。

授業中に窓の外を見ると、灰色の空から雪が降っていた。誰もいない校庭に、葉のない桜の木。時々吹く風しか動きのないこの校庭も、あと1ヶ月も経って、入学式のころには桜が満開になるだろう。

3年前の入学式の日。桜がきれいだったね、とか、そういう思い出はない。その日は確か大雨で、暖かい日差しなんてまったく無くて。4月の生暖かい雨が、桜を 散らしてしまった。中学生から高校生へと変わる人間の顔が、ずらっと並んだ体育館で、わたしはひとり、ちゃんと自分の仕事がこなせるかどうか、そわそわし ていたことは覚えている。それは、緊張や不安に追われて、”きれいな”思い出なんてないということ。でも、今思えばそれも思い出だったりするかもしれな い。

わたしは最近、50分の授業の中で、3回はこの3年間を回想している。何も無かった3年間と言っても、多少の記憶はあるみたい。

高校での生活は、3年間同じ動きを続けたみたいなものだった。毎日、校門をくぐり、靴を脱いで、椅子に座って、授業があって。最後はまた校門をくぐって、帰 宅。それだけだった。始めのうちは熱心だったはずの部活動 -バドミントン- も、大して打ち込まないで、気付いたときに最後の夏は終わってた。好きな人が出来ちゃったこともない。平凡な生活を続けて、今日まで皆勤賞。平凡っていい ことなのかな。

でも、平凡って、眠い。あぁ、字を書く手が重い。窓から顔を戻して、教室を見回すと、そういう顔ばかり。毛布みたいに暖か い空気が、わたしも眠くする。春夏秋に騒がしい教室も、冬だけは静か。3回も経験すればよくわかる。3年生の2月となると、ほとんど卒業後の進路が決まっ ているから、そういう雰囲気が、余計に教室を暖かく包んだせいもある。わたしも眠い。身体がだるい。あ、吉田がよだれを出してる。

時計を見た。あと1分だ。眠っている生徒も、”気配”を感じたのか顔を上げた。吉田はよだれを拭いてる。顔についた”ノートの痕”を気にしてる前田も。

…………ここの説明が終われば、終わる。もう黒板と時計を交互に見よう。

あと10秒。 …5、4、3、2、1秒。チャイムがやっと鳴った。

わたしは言った。

「はい、終わり。今日の範囲はここまで。ここは期末で出るからね!じゃあ、あいさつ」

学級委員の吉田が号令。

「起立、礼!」

3年前、教員1年目で赴任したこの学校。初めての入学式で、緊張の連続だった。でも、平凡だった。授業はつまらなかったし、部活顧問だったのに飽きちゃった。ごめんね!

生徒より早く廊下に出ると、伸びを一回。外は雪が止み、今度は強風だった。こんな風景も何度見たかな。わたしは、出席簿を持つと、職員室へとまた向かう。