機密文書で交わされた言葉
アメリカ、ワシントンのレイチェル公文書館は先月20日、機密保持期間の過ぎた公文書50点余り(通称:195X文書)を公開した。その多くは1950年 代のもので、当時ホワイトハウスが行った外交活動に関するもの。文字だけで構成され、5000ページを超えると言われる。
今月2日、公開から10日経ってから驚くべき事実が発覚した。なんと、暗号文が隠されており、しかも、今回それを解読した人物が作成者だったと言う。
195X文書を政府の依頼で解読した、元政府職員で社会分類学博士のジェフ・ラタ・コナー氏(73)はこう語る。「あの文書を一目見たとき、特定の規則があることがわかりました。文書を解析した結果、暗号文が現れたのです」
コナー氏は、1930年代に陸軍で諜報部員として活躍していた。そのときの経験が生き、複雑に隠されていた規則を発見するに至ったと言う。「あの文書には、第二次世界大戦中にアメリカが使用した暗号と似た特徴がありました。そこをを集中的に研究した結果、意味の通じる英文となります。例えば、A−ブロック方式の暗号では…」
その暗号解読法、途中でぶち当たった壁と挫折、妻との馴れ初め、そして近所に住む孫について嬉しそうに語ってくれたが、記録し忘れたため割愛させていただく。
結局、検出された英文とは何か、どんな目的で暗号が残されたのか。2日、コナー氏が「暗号解読」の発表を行う際、もっとも重要で大切なその答えは、非常にシンプルで突飛なものだった。
「明日、ジョージア広場で会えますか?」
「ええ! あなたに会うのを楽しみしてる」
「昨日の番組は最高だった!」
「ウィリアム長官はわがままだ…」
これらが、暗号で書かれた言葉だったと言う。会話文、あるいは現代人のメールのようなこの文を製作したのは、当時のホワイトハウス外交担当部の若者と言うことも判明した。そして、コナー氏は自身の関与を公表。
「この文書を、1950年代に政府命令で製作したのは、私、コナーです。受け取り先は当時の外交機関で働く女性でした」
それによると、「勤務中の密かな愉しみを得るため」(コナー氏談)にある日、公文書に暗号で愚痴を書き込んで運送。数日後、返送されたものを見返すと、愚痴に対する意見や励ましの言葉が暗号文で載っていたという。
「それを書いたのは、エリザベス・クローズ、現在の私の妻でした。その一件がきっかけで知り合った私たちは、以降も暗号でやり取りを続けました。そして、1960年に結婚しましたよ」
一部関係者筋では、歴史に関わる大機密が隠されているとする人物も現れたが、完全な空振り。このニュースが発信されると、世界を揺るがす秘密を期待していたホワイトハウスは「公文書の私的利用は違反」として法的措置にでようとしたものの、「空気を読んで」(地元紙)中止している。
暗号文で「待ち合わせの場所や時間を決めたり」したことが全世界に自らの口で知れ渡ってしまったコナー氏とエリザベス夫人は一躍時の人。あるインタビューでは、「自分のラブレターの解読依頼が来るなんて、思いもしませんでした。最初文書を見せられた時、平静を装うのが大変でしたよ」とのこと。
今思えば、コナー氏は私の取材で夫人との馴れ初めを語ってくれていた。記録し忘れたとは、記者失格である。