「秘境」から生還した冒険家が撮影した1枚の写真


uyuniイギリス人冒険家、ネイサン・ファーガソン氏は九死に一生を得たといっていいだろう。高度4000メートルの高山で遭難して10日以上放浪した挙句、少な くとも5日間は意識を失っていたとき、救出されたのだ。その後再び10日間の眠りについてしまったものの、現在では奇跡的な回復を見せている。

不幸なトラブル

1月3日。ペルーの4つの代表的な高山を踏破するため、ファーガソン氏率いる「ペルー高山踏破隊」全27名は出発した。しかし、1月13日にマル・ペルチェス山脈でのトランシーバー通信を最後に、麓と彼らの連絡は途絶えた。

「なぜかはわかりません。ですが、突然トランシーバーから白い煙が噴き出して壊れたことは確かです」とファーガソン氏は言う。トランシーバーが壊れたことで、彼らはピンチに立たされた。緊急事態に備えての、麓の対応を伝える唯一の手段だったのがトランシーバーだったからだ。

しかし、備えを失ったときにこそ備えは必要になるもの。不幸にも、その夜の大雨で多くのテントは押し流され、生存者は数人になったという。その後、ファーガソン氏を含む「生存者4名」は下山するべく高山を放浪し始めた。

歩き続けた先にあったもの

食料の無いまま数日歩くうちに、生存者は一人また一人と「消えて」いったという。気付いたときには、ファーガソン氏一人がその場所 –幻の湖- へと歩き出ていた。

「そこは、夢のようでした。地図にも載っていなかったはずです。ですが、空気のように透明な水と真っ白な湖底、翠青の空がどこまでも広がっている湖を私は確か に見ました。太陽が燦燦と降り注ぎ、澄んだ空気が鼻の奥深くまで切り込んでくるような感覚は、忘れられません。それはまるで、幼いときに祖母から聞いて想像した「幻の風景」そのものでした」。

風景を写真に収めたファーガソン氏は、再び歩き出した。そして、遭難から20日以上を経てようやく救出されたのだ。救出当時、彼が持っていたものは、櫛と手帳、そしてその写真が収められたカメラだけ。現像されたフィルムに写っていたのは、その風景。撮影された1枚のみだった。

湖が存在する事実

ファーガソン氏らが遭難したマル・ペルチェス山脈地帯は、未だに「秘境」とされる。開拓の波は全く押し寄せておらず、残りの隊員を探すなど不可能に近いという。撮影されたたった1枚の写真 -そのあまりに幻想的な湖- の正確な撮影場所も、全く不明のまま。ペルー地学協会のフェダ氏はこう語る。

「あの写真を見る限り、全く見当つきません。ボリビアのウユニ塩湖とよく似ていますが、ここはペルー。衛星写真等を見ても、あのような環境は確認されていませんから」と不可解性を強調した。「マル・ペル チェスの山脈には、誰も知らない湖があるという古い言伝えがあります。それがどんな湖なのか、どこにあるのか、それらは全く伝えられていません。ただ「あ る」ということだけです。伝説の風景なのかもしれません」。

唯一の生存者で撮影者でもあるファーガソン氏はあの場所について「前後が記憶から消えています。「あの風景を見た。私はあの場所にいたのだ」ということしか覚えていません」。この写真はペルー・ババラ地理館で一般公開され多くの人々の関心を集めているが、撮影場所のわかる人物は現れていない。

秘境から生還した冒険家が撮影した1枚の写真。そこに写っていたのは、美しい風景だった。ただそれが「ある」ことだけが確かなのだ。重要なのは「どこにあるのか」ではない。「ここにあるのだ」という事実だけなのだろう。